骨粗鬆症外来
骨粗鬆症
日本の65歳以上の高齢者が3186万人(平成25年9月時点)と総人口の25%と増加傾向にあります。加齢に伴って生じやすい骨粗鬆症の患者も増加傾向にあります。
骨粗鬆症とは骨強度が低下する疾患で、年齢による影響が非常に強いです。現在は下記のように骨強度は骨密度と骨質という2つの要素が関係していると考えられています。
骨強度=骨密度+骨質
骨密度と骨質はよく鉄筋コンクリート(図1)に例えられます。コンクリートの量(カルシウム・マグネシウムなど)が骨密度、鉄筋(コラーゲン)が骨質を表しております。加齢や閉経などによる女性ホルモンの減少などにより骨密度が減少します。糖尿病・高血圧などの生活習慣病の酸化ストレスによってコラーゲンが劣化します。
骨粗鬆症になると骨密度と骨質が減少してき、結果骨強度が低下して骨折しやすい身体となります。事実、骨質劣化型で骨折リスクが1.5倍、低骨密度型で3.6倍、両方合併で7.2倍増悪すると報告されています
骨粗鬆症は身体の至る箇所の骨を弱くして骨折を増加させますが、その中でも脊椎や大腿骨での骨折が多いです。脊椎の中でも腰椎の部分に非常多く、急性・慢性腰痛や神経障害を引き起こす原因となります。
(図2)
実際の症例の写真を見てみましょう。図2に示す写真は骨粗鬆症による腰椎圧迫骨折です。左からレントゲン、CT、MRIで、他の部分と違って骨の形が変形しています。このように骨の破壊が進むと急性腰痛が出現します。このまま放置しておくと偽関節と呼ばれる状態に移行する方もおられ、慢性腰痛の原因にもつながります。圧迫骨折によって脊椎変形を来した患者の中には、神経を障害されて下肢痛や歩行障害、下肢筋力低下などを呈する方もおられます。
(図3)
図3に示したレントゲンは左大腿骨頚部骨折の写真です。大腿骨頚部骨折は高齢者に最も多い骨折の1つで、転倒などの外傷をきっかけに発生します。骨折により歩行困難となり寝たきりになる恐れが高まります。また、骨折が治癒しても骨折前と同レベルの運動能力になることは少なく、運動能力の低下が残ることが多いです。
慢性腰痛や下肢障害、骨折などが出現すると運動能力が低下してしまい、生活レベルが低下して不便な暮らしを余儀なくされます。そのためには骨折しにくい身体をつくることに重要な意味があります。
検査
骨強度は骨密度と骨質の2つの要素より成り立っています。それらを評価することが骨粗鬆症の治療の第一歩となります。
骨密度は超音波やレントゲンを用いて測定することができます。当院ではレントゲン(DIP法)を用いて骨密度を評価します。DIP法は両手のレントゲンのみで計測することができるため、簡便で低侵襲、計測時間が短い、コストが他の検査と比較して安いことがメリットです。
骨質は採血で血液や尿で評価することが可能です。コラーゲンを劣化させる物質としてホモシステイン・低カルボキシル化オステオカルシンなどがあり、それらを確認することで骨質劣化の評価を行います。
またWHO(世界保健機関)が発表している10年以内の骨折発生リスクを評価するための 骨折リスク評価ツール(FRAX™)というものがあります。インターネット上で12項目の質問に回答して自分の骨折リスクを評価することが可能です。
上記のように骨粗鬆症は加齢とともに罹患する身近な疾患で、かつ生活レベルに直結します。そのため十分に対策や治療を講じる必要があります。当院では骨粗鬆症だけでなく、それによって引き起こされる圧迫骨折にも対応したクリニックを目指しており、来院される皆様の生活しやすさをサポートしていきます。
骨粗鬆症の治療
骨粗鬆症の発病には加齢や閉経以外にも食事や運動などの生活習慣が関与しています。そのため骨の生活習慣病とも呼ばれ、食事療法や運動療法も骨粗鬆症の“予防”には有効です。しかし、骨粗鬆症と診断された場合の“治療”には薬物治療が中心となります。
骨粗鬆症の治療目的は骨折予防です。そのためには骨強度の改善が必要です。骨強度は骨密度と骨質で成り立っています。骨強度の改善は骨密度と骨質の改善を意味します。
骨強度=骨密度+骨質
骨の成り立ちについて少し説明します。骨を形成する骨芽細胞と骨を吸収する破骨細胞の2つの要素がバランスよく機能することで骨は形成・維持されています。その2つを薬物でコントロールすることが治療となります。それではこれから治療薬を紹介していきます。
①ビスホスホネート製剤
破骨細胞に作用して骨吸収を低下させ骨密度を上昇させます。96年より日本で承認されて以降使用されてきております。そのため現在までに様々な改良がなされ、現在では骨粗鬆症治療の主流となっています。その効果は骨密度上昇だけでなく、全身の骨折予防にも寄与しその信頼性も高いです。
使用方法は内服薬と注射の2つがあります。内服薬は毎日内服・週1回内服・月1回内服がありますが、その内服の仕方には特徴があります。内服方法は起床してすぐに水(ミネラルウォーターはダメ)で内服、内服後30分は横にならずに飲食厳禁です。横にならないのは胃腸障害を予防するため、飲食厳禁は薬の吸収を妨げないためです。注射薬は月1回の投与で、内服薬のような制限がないことが利点です。
②活性型ビタミンD
破骨細胞の発現を抑制すること、消化管からのカルシウム吸収などのカルシウム代謝改善によって骨密度の上昇をもたらします。さらに筋力の改善を促し転倒予防の効果も認めます。転倒が22%抑制されたと報告され、転倒による骨折予防にもつながります。
高齢者にビタミンD不足が多いことがいくつも報告されており、食事からの積極的な摂取あるいは内服投与が望まれます。
③ビタミンK
骨の蛋白質の1つであるオステオカルシンが正常に機能するために必要なビタミンです。骨密度とは関係ない骨折の危険因子の1つと考えられており、ビタミンKが不足することで骨密度が正常でも骨折しやすくなる恐れがあります。骨折予防で投与することもありますが、抗凝固薬など一部の薬と併用ができないことがあります。
④選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)
女性ホルモンであるエストロゲンと同様の働きを骨に行う治療薬です。閉経後骨粗鬆症の患者に対して使用され、骨密度上昇・骨折予防が報告されております。骨のみに特異的に効果を発揮するため、女性ホルモンと違い子宮・乳房には作用を示さないので子宮・乳がんのリスクになる可能性は低いです。更年期症状(のぼせ・発汗など)がある方、静脈血栓塞栓症の既往やリスクがある方には使用が困難となっています。
⑤カルシトニン
破骨細胞に作用してその機能を抑制して骨密度を上昇させる効果があります。この治療薬にはそれ以上の効果があることで有名です。骨粗鬆症などによる骨折、例えば脊椎圧迫骨折などの疼痛に対する鎮痛効果です。週1回の投与で効果を認めて、継続的に日常生活での疼痛改善を認めております。さらには歩行訓練などのリハビリテーションの効果も増強されるという報告もあります。
⑥テリパラチド
人体内に存在している副甲状腺ホルモンを人工的に作製した治療薬です。骨を形成する骨芽細胞に作用して骨密度と骨質の改善を促します。この治療薬は脊椎椎体骨折の予防に関しては全治療薬の中で最も効果の高いものとされており、活性型ビタミンDと併用することでさらにその効果を高めることができます。
使用方法は2つあり、患者自身が毎日注射するタイプと、クリニックで週1回投与するタイプがあります。また特徴として毎日注射タイプは24か月、週1回投与タイプは72週と使用期間の限定があることです。
⑦デノスマブ
RANKLという破骨細胞を成熟させるための物質を阻害することで破骨細胞の機能を低下させ骨密度を上昇させます。様々な箇所の骨折の予防に効果を認めています。
上記に挙げた治療薬を単独あるいは併用して骨粗鬆症の治療を行っていきます。当院では整形外科専門医が事前に骨密度評価と採血にて患者の骨粗鬆症を評価して適正な治療薬を選択します。更にその効果判定も継続して行い、もし効果が不十分であればより良い治療薬へと変更していきます。
骨粗鬆症は疼痛だけでなく身体機能の著しい低下を来して生活レベルの低下をもたらします。そのようなことを事前に予防することが治療の最大の目的であり、当院の目指す理想でもあります。